10年をふりかえって
(株)ヤマウチ 山内正文社長
10年前の東日本大震災の際には、全世界、全国のたくさんの皆さんから、温かい励ましのお言葉、ご支援をいただきました。大変ありがとうございました。この場をお借りしまして、御礼を述べさせていただきます。おかげさまで復興への道はまだ半ばではありますが、夢中で前に進んでおります。これからも引き続き皆さんのお力添えをお願いいたします。
震災で失ったもの 失われなかったもの
震災当時 ヤマウチの工場の様子
さて、私どもの会社のことを少し述べたいと思います。震災の大津波により、会社、自宅を含めた家屋のすべてを流失しました。店舗が2ヶ所、工場が2ヶ所、インターネット販売の事務所の5ヶ所です。
震災前、本店は地域の人たちが多く訪れる、鮮魚、精肉、総菜などの販売が中心の店でした。支店は、鮮魚と地場の素材を使って自社加工した商品が主で、観光客や近隣の市町村から多くのお客様が来店されていました。工場では、鮮魚の出荷と多種類の加工品を造っておりました。おもに “しっかり朝ごはん” 12種の焼き魚は、全国のスーパーに毎日出荷していました。
2015年 志津川の復興の様子
「宮城ものづくり大賞グランプリ」をいただいた『帆っ伊達な炙り』は、水揚げされた帆立を活きたまま、天然の塩と「一ノ蔵」さんの純米酒でふっくらと焼いたものです。「農林水産大臣賞」をいただいた『牡蠣の桜燻し』は、南三陸産の真牡蠣を天然の塩と桜のチップでやさしくスモークしています。その他の商品も毎年、様々な品評会で受賞をしておりました。
IT事業部では自社製品をネット販売、カタログ販売を行っており、写真の撮影、カタログの製作、ホームページの製作も全て、自社のスタッフで行っておりました。
我が社は、震災前から会社の理念として、南三陸の食材にこだわった原料で、その原料が一年で一番おいしい時期の旬のものを仕入れ、素材の味を最大限に引き出す方法で加工品を造る、加工品を造り続ける。その理念でずっと進んでまいりました。もちろんそれは無添加、無着色で製造し続ける、ということであります。
震災50日後から2020年3月まで毎月開かれた「福興市」
私たちは、震災から50日後の4月29日、30日に、全国の商店街の仲間のお力を借りて、「福興市」というテント市を開催しました。
「市を興して幸福になる」という意味の福興市です。私たちは商売、あきないを通してお客様とつながり、住民の皆さんのお力を借りながら一日も早く震災前の街以上の街をつくる。そういう目的で動き始めました。売るものもない、売る道具もない、買う人をどうやって集めるか。ないない尽くしで始まりましたが、町の人が大勢集まり、近隣の市町村からも応援をいただき、全国からたくさんのボランティアの方と商店街の仲間が集まり、元気に開催できました。
それからは、ほとんど毎月、福興市を開いております。昨年の4月には記念すべき100回目を迎えるわけでしたが、コロナの影響で今年の開催に延ばさざるを得なくなりました。
お客様からいただいた元気、そして再建へ
2016年に完成した新工場
2017年に本設オープンした「南三陸さんさん商店街」の「山内鮮魚店」
福興市を開催したおかげで、私たち商人がお客様から元気をいただき、商売をまた再開しようという気持ちを持たせていただきました。震災から翌年の2月25日には、仮設の商店街をつくり、全国からたくさんのお客様を呼び寄せることができました。そして3年前に本設の商店街も完成いたしました。
弊社では、震災の年の8月に冷凍工場と店舗を高台に建設。12月に臨時の加工場をいち早く用意することができ、生産と販売を開始することができました。震災後の7月から、南三陸の魚市場が臨時開場しました。原料の確保もでき、震災前にいた従業員も半分以上が戻ってきてくれ、平成28年には本格的な衛生管理の行き届いた工場を建設。2020年には、市場前の第一工場が完成し、すべての環境が震災前に戻りました。
これからは、新しい施設を活用し、素材の本質を探究した安全で安心、そして何よりもおいしい製品をつくり続けていく覚悟です。
お酒のおいしさを引き立たせる、お酒の友としてのおつまみを造り続けます。
これからも、皆様の変わらない応援をよろしくお願いいたします。
2021.01